格助詞
第三章 助詞
1 格助詞
格助詞は、現代語とあまり変わらないので、現代語にないものや、現代語と違う用法だけを覚えてやれば、他は現代語と同じです。
◎「が」、「の」の用法
・主格(〜が)
主語であることを示します。現代語の「が」の用法。
・連体修飾格(〜の/〜のような)
体言(名詞)を修飾します。現代語の「の」の用法。たまに比喩的に「〜のような」と訳した方がよい場合もあります。
・準体格(〜のもの)
本来なら体言を修飾するところを、下の体言を省略します。現代語の「の」の用法
・同格(〜で)
古文独特の用法で、入試超頻出。「の」(まれに「が」)を挟んで、上のものと下のものとが、同じであることを示します。通常、
体言(または準体法の連体形)+の+準体法(または体言)+格助詞(または係助詞)
という形をとり、
例 大きなる柑子の木の枝もたわわになりたるに、
この場合、「大きなる柑子の木」と「枝もたわわになりたる(もの)」が同じ木で、全体で格助詞「に」にかかってきます。
訳は、「大きな柑子の木で、枝もたわむくらいに実がなっているものに、」となります。
こうした同格の用法は、英語の関係代名詞に似ているので、英語の得意な人は、「先行詞+関係代名詞」のようなものだと思えばよいでしょう。
・連用修飾格(比喩)(〜のように)
用言を修飾します。
例 例の狩りしにおはします。
この場合、連体修飾格と見て、「いつもの狩りをしにいらっしゃる」と訳すことも出来ますが、「例の」が動詞を修飾している連用修飾格と見て、「いつものように狩りをしにいらっしゃる」と訳した方が、良いでしょう。
問一 次の括弧内の格助詞の用法を、後のア〜オから選びなさい。
① 草の花は、瞿麦。唐(の)はさらなり。 ( )
② かぐや姫(の)、皮衣を見ていはく、 ( )
③ 「このほどの事くだくだしければ、例(の)もらしつ」 ( )
④ 白き鳥(の)嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる ( )
⑤ 大進生昌(が)家に、宮の出でさせたまふに、 ( )
ア 主格 イ 連体修飾格 ウ 準体格 エ 同格 オ 比喩
◎「より」
・起点(〜から/〜より)
現代語では、「から」が用いられることが多いのですが、手紙の場合は、今も「より」を使いますね。
・比較の基準(〜より)
現代語と同じ用法です。
・経過点(〜を通って/〜から)
場所を表す言葉についたら可能性があります。それほど気にしなくてもよいでしょう。
・手段・方法(〜で/〜によって)
入試頻出。
例 己夫し徒歩より行けば見るごとに音のみし泣かゆ
この場合、「徒歩(かち)より」を「徒歩で」と訳します。
・即時(〜とすぐに/〜やいなや)
入試頻出。英語の「as soon as」のような用法です。
例 門引き入るるより、けはひあはれなり。
この場合、「門引き入るるより」を「(牛車を)門から引き入れるとすぐに」と訳します。
◎「に」
・場所・時間・対象・結果・基準など(〜に/〜で)
基本的には現代語の「に」と同じですが、現代語では「で」を使う場合でも、古語では「に」を使う場合があるので、文脈によっては、「で」と訳すこともあります。
・敬意(〜におかれては)
高貴な人が主語である場合、まるで人ではなく場所であるかのように表現して、敬意を表します。「主語+に」となるので、慣れればすぐにわかりますが、慣れないと、主語を見失いがちです。
例 弘徽殿には、久しく上の御局にも参上りたまはず。
この場合、「弘徽殿」が「参上りたまはず」の主語なので、「弘徽殿の女御におかれては、帝の傍のお部屋にも参上なさらない」と訳すことになります。
・原因・理由(〜によって/〜のために)
現代語の「に」にも同じようなニュアンスはあります。
・強意(ひたすら〜)※動詞の連用形+に+同じ動詞
現代語ても「走りに走って逃げた」などと使います。
◎「して」
・手段・方法(〜で/〜を用いて)
例 御衣して耳をふたぎたまひつ。
この場合、「お着物で耳を塞ぎなさった」となります。
・人数・範囲(〜で/〜と一緒に)
例 二人して打たむには、
この場合、「二人で打つとしたら」となります。
・使役の対象(〜に/〜を使って)
使役の対象を示す場合は、和文では現代語同様「に」を使うことが多いのですが、漢文訓読では「して」を使います。
◎「にて」
現代語にはない助詞ですが、ほぼ「で」と訳せばOKです。
・場所(〜で/〜において)
現代語でも文章語では使うことがあります。
・年齢・時間(〜で)
・手段・方法(〜で/〜を使って)
入試頻出。
例 舟にて渡る。
この場合、「舟で渡る」となります。
・資格(〜で/〜として)
例 太政大臣にて位を極むべし。
この場合、「太政大臣として位を極めるだろう」となります。
・原因・理由(〜で/〜によって)
◎「と」
基本的に現代語と同じですが、引用の「と」は、文末に接続するので注意が必要です。
・動作をともにする相手(〜と)
・変化の結果(〜と)
・引用(〜と/〜と思って/〜と言って)
・強意(ひたすら〜/どんどん〜) ※動詞の連用形+と+同じ動詞
◎「とて」
・引用して下に続ける(〜と言って/〜と思って/〜として)
◎その他の格助詞 ※現代語と同じ
・「を」=〜を
・「へ」=〜へ
・「から」=〜から
問二 次の文を、格助詞に注意して、現代語訳しなさい。
① ある時、思ひ立ちて、ただひとりかちより詣でけり。
② 名を聞くより、やがて面影はおしはからるる心地す。
③ そこなりける岩に、およびの血して書きつけける(歌)。
④ 御使にも、女房して、土器さし出でさせたまひて、強ひさせたまふ。
⑤ 蛤の貝にて髭を抜くもあり。