推量の助動詞
4 推量の助動詞
◎「む」、「むず」
・接続…未然形
・活用 「む」…四段型/「むず」…サ変型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
(ま) | ○ | む(ん) | む(ん) | め | ○ |
○ | ○ | むず(んず) | むずる(んずる) | むずれ(んずれ) | ○ |
意味
※文末で使われる場合
・推量(〜だろう) ※他人・人以外が主語
・意志(〜よう/〜つもりだ) ※本人が主語
・勧誘(〜とよい/〜がよい) ※会話・手紙・和歌で、相手が主語
※連体修飾・準体法のとき
・仮定(〜としたら/〜ならば)
※「〜むには、」・「〜むに、」・「〜むは、」/「〜む〇には、」・「〜む〇に、」・「〜む〇は、」・「〜む〇、」(〇=時を表す名詞)/「〜むにこそ、」・「〜むこそ、」の場合、仮定の可能性が高い。
・婉曲(〜ような)
◎「らむ」
・接続…終止形(ラ変型には連体形)
・活用…四段型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
○ | ○ | らむ(らん) | らむ(らん) | らめ | ○ |
意味
※文末で使う場合
・現在推量(〜ているだろう)
・原因推量
原因が書いてある場合(…から、〜ているのだろう)
例 吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ
原因不明の場合(どうして〜ているのだろう)
例 久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
など中納言は参り給はざるらむ。
※連体修飾・準体法のとき
・伝聞(〜という/〜と聞く)
・婉曲(〜ような)
◎「けむ」
・接続…連用形
・活用…四段型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
○ | ○ | けむ(けん) | けむ(けん) | けめ | ○ |
意味
※文末で使われる場合
・過去推量(〜ただろう/〜たのだろう)
※連体修飾・準体法のとき
・過去の伝聞(〜たという/〜たと聞く)
問六 次の括弧内の助動詞の意味と活用形を答えなさい。
① 年五十になるまで至らざら(む)芸をば捨つべきなり。
意味( ) 活用形( )形
② 石山に詣でて七日ばかりあら(む)と思ひて詣でぬ。
意味( ) 活用形( )形
③ これが花の咲か(む)折には来むよ。
意味( ) 活用形( )形
④ 大勢の中をうち破ってこそ後代の聞こえもあら(んずれ)。
意味( ) 活用形( )形
⑤ 「命長くとこそ思ひ念ぜ(め)」
意味( ) 活用形( )形
⑥ この馬いかがしたり(けん)。
意味( ) 活用形( )形
⑦ 行平の中納言の「関吹き越ゆる」と言ひ(けむ)浦波
意味( ) 活用形( )形
⑧ 春の色のいたりいたらぬ里はあらじ咲ける咲かざる花の見ゆ(らむ)
意味( ) 活用形( )形
問七 次の括弧に「む」、「らむ」、「けむ」のいずれかを、適当な形にして入れなさい。
① 人の言ふ( )ことをまねぶらむよ。
② 夜半にや君がひとり越ゆ( )
③ 生けら( )ほどは武にほこるべからず。
④ あづま路の佐夜の中山なかなかに何しか人を思ひそめ( )
◎「べし」
・接続…終止形(ラ変型には連体形)
・活用…形容詞(ク活用)型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
べく | べく | べし | べき | べけれ | ○ |
べから | ぺかり | ○ | べかる | ○ | ○ |
※形容詞と同様、ラ変型のカリ活用は、助動詞に続く時にしか使いません。
意味
・推量(〜だろう/〜に違いない) ※文末が多い
・意志(〜よう/〜つもりだ) ※本人が主語
・可能(〜ことができる) ※文脈で分かりやすい
・当然(〜はず/〜べき) ※「〜するのが当然だ」と置き換えられる
義務(〜なければいけない/〜なければならない)
予定(〜ことになっている)
・命令(〜せよ/〜しろ)
・適当(〜とよい/〜方がよい) ※「〜するのが適当だ」と置き換えられる
※「す・い・か・と・め・て」と覚えます。義務・予定は、当然の中に含まれます。客観基準だけでは見分けられないので、しっかりと訳の仕方を身に付け、文脈に応じて訳を当てられるようにしましょう。ただし、当然・命令・適当は、意味の方向性は同じ(相手に押しつける)なので、微妙な時もあります。
例えば、
「左脇を締めて、やや内角に捻り込むように打つべし」(『あとたのジョー』より)
とあれば、
「打つべし」を「打て」と命令で訳すのが一般的ですが、
「打つべきだ」(当然)、「打つとよい」(適当)で訳しても、おかしくはないでしょう。こういう場合は、柔軟に(選択肢などに合わせて)捉えるべきです。
問八 次の括弧内の助動詞の意味と活用形を答えなさい。
① 「高綱、この御馬で宇治川の真先渡し候ふ(べし)」
意味( ) 活用形( )形
② 家の造りやうは、夏をむねとす(べし)。
意味( ) 活用形( )形
③ 思ひやめむとすれども、やむ(べく)もあらず。
意味( ) 活用形( )形
④ 恐るべく、つつしむ(べき)は、このまどひなり。
意味( ) 活用形( )形
⑤ 深きこころざしは、この海にも劣らざる(べし)。
意味( ) 活用形( )形
⑥ 「とうとう鎌倉へ帰らる(べし)」
意味( ) 活用形( )形
◎「じ」
・接続…未然形
・活用…特殊(無変化)型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
○ | ○ | じ | じ | じ | ○ |
意味
・打消推量(〜ないだろう/〜まい)
・打消意志(〜まい/〜つもりはない) ※本人が主語
※「む」の打消ですが、文末でしか使わないので、意味は二つだけ。主語で見分けはつきます。
◎「まじ」
・接続…終止形(ラ変型には連体形)
・活用…形容詞(シク活用)型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|---|---|
まじく | まじく | まじ | まじ | まじき | まじけれ | ○ |
まじから | まじかり | ○ | まじかる | ○ | ○ |
※ラ変型の部分(まじから/まじかり/まじかる)は、助動詞に続く場合のみ。
意味
・打消推量(〜ないだろう/〜まい)
・打消意志(〜まい/〜つもりはない)
・不可能の推量(〜できそうにない/〜できないだろう)
・打消当然(〜はずはない/〜べきでない)
・禁止(〜な/〜てはならない)
・不適当(〜とよくない/〜ない方がよい)
※「べし(す・い・か・と・め・て)」の打消と覚えればいいでしょう。
問九 次の括弧内の助動詞の意味と活用形を答えなさい。
① 一生の恥、これに過ぐるはあら(じ)。
意味( ) 活用形( )形
② 「遅く来るやつばらを待た(じ)」
意味( ) 活用形( )形
③ ものうらやみはす(まじき)ことなり。
意味( ) 活用形( )形
④ たやすくは人寄り来(まじき)家を造りて、
意味( ) 活用形( )形
⑤ 冬枯れのけしきこそ秋にはをさをさ劣る(まじけれ)。
意味( ) 活用形( )形
◎「まし」
・接続…未然形
・活用…特殊型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
ましか(ませ) | ○ | まし | まし | ましか | ○ |
※未然形は、接続助詞「ば」に続いて仮定を表す時だけ使います。終止形・連体形・已然形は、文末だけで、連体形・已然形は「係り結び」の時です。
意味
・反実仮想(…だったとしたら、〜だったろうに) ※仮定の表現を伴う
・ためらいの意志(〜ようかしら) ※疑問語を伴う
・不可能な希望(〜だったらよかったのに)
※通常は上記三つの意味で用います。客観基準で見分けられるので、しっかりと覚えましょう。ただし、疑問語を伴っていても、仮定の表現も伴っていれば、それは反実仮想の疑問文(〜だったろうか/〜だったかも知れない)となります。どちらも伴っていない時は、実現不可能なことを希望することになります。
・推量(〜だろう) ※近世の擬古文
※推量は、近世の国学者たちが「まし」の用法を勘違いしたために出て来た意味なので、通常は問われません。仮定の表現の後の文末に「まし」が来るところは「反実仮想」と同じです。
問十 次の括弧内の助動詞の意味と活用形を答えなさい。
① 世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけから(まし)
意味( ) 活用形( )形
② 「この渚に身をや捨て侍りな(まし)」
意味( ) 活用形( )形
③ 白玉かなにぞと人の問ひしとき露と答へて消な(まし)ものを
意味( ) 活用形( )形
◎「めり」
・接続…終止形(ラ変型には連体形)
・活用…ラ変型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|
○ | (めり) | めり | める | めれ | ○ |
意味
・推定(眼前推量 〜ようだ) ※視覚に基づく
・婉曲(〜ようだ) ※連体修飾・準体法、視覚に基づかない
◎「なり」
・接続…終止形(ラ変型には連体形)
・活用…ラ変型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
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○ | (なり) | なり | なる | なれ | ○ |
意味
・伝聞(〜という/〜と聞く) ※他人から聞いたこと
・推定(〜ようだ/〜らしい) ※聴覚・嗅覚に基づく
◎「らし」
・接続…終止形(ラ変型には連体形)
・活用…特殊(無変化)型
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
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○ | ○ | らし | らし(らしき) | らし | ○ |
意味
・推定(〜らしい) ※確かな根拠に基づく
※ラ変型の連体形に助動詞「めり」、「なり(伝聞・推定)」、「らし」がつく場合、撥音便 無表記が起こりやすい。
問十一 次の括弧内の助動詞の意味と活用形を答えなさい。
① 簾すこし上げて、花奉る(めり)。
意味( ) 活用形( )形
② 少納言の乳母とこそ人いふ(める)は、この子の後見なるべし。
意味( ) 活用形( )形
③ 人々あまた声して来(なり)。
意味( ) 活用形( )形
④ 男もすなる日記といふものを女もしてみむとてする(なり)。
意味( ) 活用形( )形
⑤ みな人は花の衣になりぬ(なり)苔の袂よかわきだにせよ
意味( ) 活用形( )形
⑥ 立田川もみぢ葉流る神なびの三室の山に時雨降る(らし)
意味( ) 活用形( )形
問十二 次の括弧内の音便になった語を元の形に直しなさい。
① 人のこころざし(等しかん)なり。 ( )
② 春過ぎて夏来に(け)らし ( )
③ 扇のにはあらで、海月の(な)なり。 ( )