尊敬の助動詞

第二章 助動詞

1 尊敬の助動詞
 通常、「る」、「らる」は自発の助動詞であり、「す」、「さす」、「しむ」は使役の助動詞とするのですが、これらはすべて「尊敬」の意味で使われることがあり、しかも、接続(何形につくか)も活用の型も同じなので、覚えやすいように、一括して取り扱います。


・接続…未然形

・活用…下二段型

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
るる るれ れよ
られ られ らる らるる らるれ られよ
する すれ せよ
させ させ さす さする さすれ させよ
しめ しめ しむ しむる しむれ しめよ

◎「る」、「らる」
 四段・ナ変・ラ変(未然形がア段になる活用)には「る」、それ以外には「らる」がつく。

意味
現代語の「れる」・「られる」に相当し、まったく同じ使い方をするので、四つの意味があるが、現代語の感覚でも、ほぼ識別できる。
・受身(〜れる/〜られる)
・自発(自然と〜れる/〜られる)
※「思ふ」など、心情を表す語や、「泣く」など、心情が直接表れる動詞につくことが多い。
・可能(〜ことができる)
平安時代までは、必ず打消を伴って不可能を表したので、打消の語を伴うことが多い。鎌倉時代以降は、単独で可能を表すこともある。
・尊敬(お〜になる/〜なさる)
 ※下には尊敬語はつかない(下に尊敬語がある場合は、他の意味となる)。


問一 次の括弧に、助動詞「る」または「らる」を適当に活用させて入れ、また、その意味を答えなさい。

 ① 大井の土民に仰せて、水車をつくらせ(     )けり。

意味(     )

 ② 目もあて(     )ぬこと多かり。

意味(     )

 ③ 住みなれしふるさと限りなく思ひいで(     )。

意味(     )

 ④ 女に笑は(     )ぬやうにおほしたつべし。

意味(     )

◎「す」、「さす」、「しむ」
 「す」・「さす」は、主に和文で用いられ、四段・ナ変・ラ変には「す」、それ以外の活用には「さす」がつく、という違いがある。「しむ」は、主に漢文訓読に用いられ、すべての動詞につく。

意味
・使役(〜せる/〜させる)
・尊敬(お〜になる/〜なさる)
※必ず下に尊敬語を伴う。

識別
・すぐ下に尊敬語がない場合 → 使役
・すぐ下に尊敬語がある場合 → 文脈で判断
使役+尊敬の文脈…AがBに(Bを派遣して/Bに命じて)〜させなさる。
  ※使役の対象がB
尊敬+尊敬の文脈…Aが(Bに/Bを)〜なさる。

問二 次の括弧の中の助動詞を、適当な形に改め、意味を答えなさい。
 ① なにとなきことなどのたまはせて、帰ら( す )たまふ。

               適当な形(     ) 意味(     )

 ② 例の声出させて、随身に歌は( す )たまふ。

               適当な形(     ) 意味(     )

 ③ 常にもの言ひ伝へ( さす )人に、たまさかにあひにけり。

               適当な形(     ) 意味(     )

 ④ 五月二十四日、冷泉院は誕生せ( しむ )たまへり。

               適当な形(     ) 意味(     )