上代の助動詞

8 上代の助動詞
 古語の助動詞の中には、上代奈良時代以前)には用いられていたのに、平安時代以降は用いられなくなったものもあります。通常、古典文法は平安時代中期(『源氏物語』や『枕草子』の時代)を基準とするので、あまり習う機会がないでしょうが、『万葉集』の和歌などで使用されることがあるので、知っておきたいものです。

◎「ゆ」、「らゆ」

・接続 「ゆ」…四段・ナ変・ラ変動詞の未然形
「らゆ」…下二段動詞の未然形

・活用…下二段型

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
ゆる ゆれ
らえ

意味
「ゆ」
・受身(〜れる)
・自発(自然に〜れる)
・可能(〜ことができる)
「らゆ」
・可能(〜ことができる)

平安時代以降の「る」、「らる」に相当します。「らゆ」は、打消を伴った不可能の表現しか使用例がありませんが、「ゆ」は広く使われ、「おぼゆ」、「見ゆ」、「聞こゆ」などは、動詞の未然形に「ゆ」がついたものが一語化したものです。


◎「す」

・接続…未然形(但し、「聞こす」のような特別な形につくこともある)

・活用…四段型

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形

意味
・尊敬(お〜になる/〜なさる)

※「す」も動詞の未然形についたものが一語化した「聞こす」、「のたまはす」などがあります。

上代助動詞の使用例(『万葉集』/『古事記』より)
 ① あぢ群のとをよる海に船浮けて白玉採ると人に知ら(ゆ)な
  受身・終止形

 ② あかねさす昼は物思ひぬばたまの夜はすがらに音のみし泣か(ゆ)
  自発・終止形

 ③ 湊廻に満ち来る潮のいや増しに恋は余れど忘れ(え)ぬかも
  可能・未然形

 ④ ほととぎすいたくな鳴きそひとり居て寝の寝(らえ)ぬに聞けば苦しも
  可能・未然形

 ⑤ 二柱の神、天の浮き橋に立た(し)て
尊敬・連用形